通過タイム(1000ごと)
2021-07-30
2021-07-18
スーパースパイクはどうして速く走れるという謳い文句が無いのか?
The Science of Track and Field’s New Super Spikes
Alex Hutchinsonによる記事が出ていましたが、簡単な話、ランニングシューズは酸素摂取量を指標として用いることが出来るが、スパイクのように全力で走ることを目的としたものでは、比較がしにくいので効率よく走れる、速く走れるようになる、ということが言えないという話ですね。これを科学的に解析して速さの理由を説明した論文がまもなく出されるところですが、その中で書かれているのが、
Importantly, the effects of super spikes will vary based on several factors including the event-specific speed (i.e. 100 m vs. 10,000 m) and the characteristics of the athlete wearing them.
種目特有のスピードや選手個々人の特徴によって影響が変わる、ということです。スーパースパイクを使うことによるメリットが人それぞれであるため、これが効果的ということが言いにくいわけですね。この論文のイントロ部分ではエネルギーの節約が4%であっても、走る際にタイムが4%向上するわけではないという点を示しています。これはシューズが軽くなればタイムは向上するという論文を引いて説明していますが、より速いスピードで走れるようになれば空気抵抗が高まるため、これまでの厚底シューズのように速く走れますということを簡単には言えないわけです。エリート選手のマラソンにおいては節約されるのは3分の2程度になるであろうとのこと。個人によって変わるという話は永原先生の論文にもある通りで、toe-flexor strength, rebound continuous ankle jump performance, and body mass、によって硬い靴底のスパイクを使えるかの指標になると考えられます。個人によって恩恵が違うというのは、自分に適しているスパイクなのかを考える必要があるということ居なるかと思います。
これまでのスパイクはどうしてミッドソールが無かったのか?これは今の厚底シューズに使われているような軽い素材が無かったため、使用しても重くてタイムが上がらなかったからと説明しています。品質の変化によるエネルギーリターンの向上もあると考えられています。また、スパイクに関しては市場が狭いので大規模な研究が実施されにくいため、タイムが向上する理由を明確にするようなデータは出にくいといったことを述べています。マラソンシューズは市場が大きいので明らかに効果があったというのをアピールするのは商品販売に大きな効果をもたらしますからね。
ランニングエコノミーからタイム向上に関して考えられないのか?という点に関しては、トレッドミルでの測定を上回る速度で走るため、定常化する時間の走行が難しいという問題について触れています。およそ3~4分間の走行によって出てきた数値を分析しますが、その時間を走り続ける速度となると難しいのは経験者ならば分かるかと思います。要するに1500mを3.26.00のペースで4分間走り続けないと比較がしにくいという問題です。測定において世界記録が出ることになります。しかし、800mに向けたスパイクでタイムが向上するとして、それをデータ測定するために4分間走れとなると、800mの世界記録が約1分40秒なので1600m走っても3分20秒。まだ走り続けないとデータが取れません。人間の身体には無理ですね。その他についてもいろいろと触れていますが、結論としては「速く走れるようになるかもしれないがその理由はよく分からん」となると言えます。体重がスパイクとベストにマッチしている、走り方が適しているなど様々な理由が影響するわけで。とにかく履いたら速くなるかもしれないが、その理由は分からんのです、というのが科学的な答えになるのが不思議かもしれませんが、比較ができないのだから現状では仕方がない、ということです。ですので、ベストな使い方、フォームを見つけること、体重を増減させてみること、いくつかのメーカーを試してみるといったことが大事になってくるかも、ということは言えるのかなと思います。
2020-04-24
ロードを走ることで故障リスクは高まるのか?
このご時世で競技場が使えないため、ロードでの練習が多くなり故障しそうです、故障しましたというご相談を頂くのですが、本当にそれってロードでの練習のせいでしょうか。
そんな話の前に延期されてしまったオリンピック関連でサーフェスの記事をご紹介いたします。
前回東京五輪、陸上好記録支えた「アンツーカー」
サーフェスをテクノロジーする(1)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO05130810S6A720C1000000?channel=DF220420167276
新記録68個、前回東京五輪支えた「夜の保守作業」
サーフェスをテクノロジーする(2)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO09596560W6A111C1000000?channel=DF220420167276
「記録の出やすさ」と「筋肉負担軽減」両立への挑戦
サーフェスをテクノロジーする(3)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO09596580W6A111C1000000/
このサーフェスの話から理解して頂きたいのは、
皆さんがタータンと呼んでいるものはタータンでは無い
ということです。全天候型の陸上競技場、赤や青の表面をしておりますが、あれはタータンではありません。競技場ごとに商品は異なるわけで、タータンと未だに呼んでおりますが、これはnintendo switchを見てファミコンと呼んでいるのと同じです。何で未だにこう呼ばれるかというと、歴史的に受け継がれているからだと思います。陸上部やクラブチームなどに入って競技場で会話をする中でタータンという言葉を覚えたと思います。よって、このタータンという呼び方は顧問の先生や先輩から受け継いだ伝統でしょう。多分この伝統が途切れることは無いと思いますが、取りあえずサーフェスという呼び方でよろしくお願いします。奥アンツーカ、長谷川体育など国内の会社が施工しております。
八王子市の富士森公園に全天候陸上競技場誕生
http://www.hasetai.com/example/detail/1632/?const=1
吹田市にブルートラックと人工芝フィールドの陸上競技場誕生
http://www.hasetai.com/example/detail/1627/?const=1
どちらも長谷川体育施設さんによる施工で表面はレヂンエースです。
レヂンエースです!!
http://www.hasetai.com/method/methodname/16/
ということでタータンでは無いです。さて、サーフェスの話で無駄に時間を費やしましたが、引き継がれる伝統というのはこうした用語に見て取れることがご理解頂けたかと思います。で、タイトルのロードを走ることにおいても、この伝統があるんじゃないのか?というお話です。少し考えて頂ければ分かる通り、今使われているシューズと30年前のシューズではショック吸収能力は明らかに違います。厚底ブームが来ている昨今では、薄い靴と比較してショック吸収能力が高いと皆さん言います。それなのに昔から言われているロードを走ると故障のリスクが高まるというのはおかしくないですか?ショック吸収能力が高まってスピードが出るようになったというのであれば、それはロードを走るからではなく速度や負荷の問題ということになるかと思います。
技術不足によるものや練習のし過ぎをロードのせいにしていませんか?
例えば、フォームを一つ例に取りますと、踵からの接地は衝撃が小さくて故障のリスクが低いと言われます。論文をいくつか眺めましたが、そのような結論に導いています。しかし、別の角度から見てみると踵からの接地により故障のリスクが高まるということも言えそうです。ハンドボールにおけるACL(膝前十字靱帯損傷)の例を眺めると、踵からの接地後に身体が傾くことなどで生じています。
www.bookhousehd.com/pdffile/msm164.pdf
これはジャンプシュートをゴール前で打つというハンドボールの競技特性によるものだと思われますが、走るという単純動作においても路面が完全に平面とは限らないので、踵から接地した後に膝が完全に固定されることはありません。そうした微妙な路面の凹凸によって膝へのダメージが生じたりするわけですが、それって靴のせいですか?違いますよね。ロードを走るのが苦手な人にあるのが、この路面の違いに適応できないというものです。全天候型の競技場において走る時の力の使い方とコンクリート、アスファルトなどでの使い方には微妙な違いが必要になります。そうした違いを意識せずに全く同じ動きで走る、微妙な路面の違いを意識しないで走るといったことが故障のリスクを高めてしまっていると思われます。シューズの機能がこれだけ向上している今、昔に比べてロードで走ることによる故障のリスクは減っているはずです。それなのに故障してしまうというのは、ロードを走るということへの技術不足か、走り過ぎです。今一度、自分の走り方、路面をしっかりと把握しているかという点を意識して、故障のリスクを減らすようにして練習をしてみてください。